A Travel Coin Flip

「最善を尽くしましたが、電気系統の故障により、半数の方は搭乗できません。もし、飛行日程を他の日に変えられる方がおられましたらお申し出ください。」
アムステルダムへ向かう飛行機の搭乗を待つ関西空港で出発予定時刻より1時間も遅れている状況で流れたアナウンス。パイロットがどうしようも仕方がない状況であると主張しながら英語でアナウンスした後、キャビンアテンダントによる日本語のアナウンスが後に続き、英語のアナウンスを聞き間違えていなかったのかと日本語で再確認し、途方にくれる。普段は適当に聞き流すアナウンスをこんなにも注意深く一語一句聞いたことは今までなかったように思う。搭乗口で待つ全員が「マジか?」となり、実際、私も母と顔を見合わせて、アムステルダム経由でベルギー旅行へ行くはずが、関西空港で一旦引き返す羽目になるのかと、次のアナウンスを待つしかなかった。
それにしても「搭乗者の半数」というのが気になる。航空便自体がキャンセルされるのとは異なり、飛行機は飛び立つけれど、乗客が半数に減らされるという事態。一体半数の乗客はどのように選別されるのか、機体のどういう不具合が原因なのか、何故半数だけが乗れるのか、不思議でならない。向かいに座っていた女性は「明日、結婚式に出席するから他の日に変更するなんて無理!」と混乱している。すると、隣に座っていた男性が「私は別の日でもいいから、もしあなたが乗れず私が乗れることになったら席を譲りましょう。」と心優しい言葉をかけている。どうやったら半数に選抜されるのかしか考えていない私とは裏腹。しばらくして「Zone Aの方、大変お待たせしました。ご搭乗ください。」とアナウンスが流れた。
実は、出発前日、飛行機の座席をチェックインする際にビジネスクラスに空きがあり、母も高齢になってきたので、母の席だけでもビジネスクラスへアップグレードすればと勧めてみた。すると、関西空港からアムステルダムまでの飛行時間は14時間以上と長く、2人共ビジネスクラスへアップグレードしようと母が気前よく提案してくれた。「私はエコノミークラスのままで問題ないし、もしビジネスクラスにアップグレードできるなら帰りの便でアップグレードしたい。」と母に伝えたら「通常のビジネスクラスの値段よりは安いし、帰りは空きがないかもしれないから、とりあえず、行きの二人分の航空券だけアップグレードしておいて。」と強く言うので、有難くビジネスクラスの席を出発前日に2席押さえていた。もちろん飛行直前に半数の搭乗者が減らされる事態になるなんて思いも寄らずに。
搭乗開始と共に呼ばれた「Zone A」というのは、ビジネスクラスやプレミアムエコノミークラスの搭乗者を指し、選抜されずに優先して搭乗できるようで、座席に着くと同時にシャンパンが振る舞われた。飛行機に乗れないかもしれないという不安から一気に解放され、快適な座席に横たわりながら一向に出発する気配のない機内でシャンパンを飲み干した。なかなか出発しなかったのは、預けた荷物の半数を降ろす作業に時間が掛かったのだろうと想像する。数時間して、搭乗客の半数のみを乗せた飛行機は関西空港を飛び立ち、予定より4時間遅れでアムステルダムのスキポール空港に降り立った。
キャビンアテンダントに尋ねてみると、エコノミークラスだけが半数程に減らされて乗車できなかったと話してくれた。
今回の目的地はベルギーのBrussels(ブリュッセル)で、アムステルダムからユーロスターで向かう予定で、飛行機と電車をセットで予約していた。4時間も遅れるなんて想像はしていなかったものの飛行機の遅延は頻繁にあるので、アムステルダムに到着する日の夜にブリュッセルへ向かうのはリスクが高いと判断し、到着翌日の昼に電車で移動するスケジュールを組んでいたのもラッキーだった。出発直前にヒヤヒヤさせられたものの、長時間とはいえビジネスクラスの快適な旅を終え、前日のビジネスクラスへのアップグレードがこんなにもラッキーな結果を生み、アムステルダムに来れたのは奇跡的だった。翌日アムステルダムで過ごせる時間は半日しかないが、こんな奇跡的に辿り着いたのだから有効に時間を使おうと思い、すっかり夜も深まったスキポール空港でホテル行きのシャトルバスを待ちながら、スマホでアムステルダム市内にある国立美術館へ翌朝入館できるよう予約をし、空港近くのホテルで眠りについた。

ヨーロッパの冬は日が昇るのが遅い。朝8時でもまだ暗い中、ホテルを出てバスでアムステルダム市内へ向かう。車窓から真っ赤に染まった空から太陽が昇るのを眺めていると、美しいアムステルダムの街並みが見えてきた。朝9時の開館と共に美術館に入館し、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」、ゴッホの「自画像」、レンブラントの「夜警」等、名画を鑑賞。

その後、オランダ人が大晦日までに食べないと新年を迎えられないという「Oliebollen (オリーボーレン)」の有名店へトラムで向かい、シナモンが香るレーズン入りの焼き立てのオリーボーレンを店の前でかぶりつき、半日間のアムステルダム滞在を終える。スーツケースを取りにホテルへ戻り、ユーロスターで予定通りブリュッセルへ向かった。
最終目的地のブリュッセルにはユーロスターで2時間程で到着し、夜はベルギー料理のレストランへ。「Bonsoir!(こんばんは。)」と店員にフランス語で挨拶され、フランス語を話す練習をしに旅先をベルギーに決めたことを思い出した。私は Bouchées à la reine(ブーシェ・ア・ラ・レーヌ)を、母は Boulettes à la liégeoise(リエージュ風ミートボール) を注文した。観光地の中心にあるにも関わらず、地元の人が多く訪れるレストランのようで店内はたくさんの地元の人で賑わい、雰囲気がとても良く、料理だけでなく「ベルギー」を存分に味わえた。

クリスマスイブは朝からホテル周辺を散策し、結構歩いてお腹が空いたので、カフェに入る。私は Croque-monsieur(クロックムッシュ)、母は本日のスープランチを注文したのに30分経っても食事が運ばれてこない。お腹を空かせていたせいもあり、待ちきれなくなった母は店員を呼びつけ、苛立ちながら「遅い!」と文句を言うと、慌てた店員が厨房に向かい、しばらく経って食事が運ばれた。どうも注文自体忘れられていたようで、ドリンクを無料でサービスすると申し訳なさそうに謝ってくれた。「怒る事ないやん。」と呑気な私をよそに母はドリンクが無料になったと機嫌をよくして店を後にした。
クリスマス当日の昼間は流石にどの店舗も閉まっていたものの、夜になるとクリスマスマーケットに店が立ち並び、世界遺産グランプラスでのイルミネーションが開催され、ヨーロッパらしいクリスマス時間を過ごした。

翌日はブリュッセルから1時間のところにある『タンタンの冒険』で有名なベルギーの漫画家エルジェ美術館を訪れ、昼食にマヨネーズ味のハンバーグを食す。ベルギーはフライドポテトも付け合わせはマヨネーズ。日本のマヨネーズより少し酸味が効いてタルタルソースに近い味。
残りの2日間はブリュッセルから電車で1時間程のAntwerp(アントワープ)で過ごす予定で、ホテルではなくアパートの一室を1ヶ月程前から予約していた。とても素敵なインテリアでリビングにピアノがある部屋。母が3年程前からピアノを習い始めたので、アントワープでピアノを弾けたら素敵な思い出になると思い、そこに泊まるのを楽しみにしていた。
ところが、アントワープへ移動する前日になっても住所やチェックインの詳細等、アパートのオーナーから一向に連絡がない。おかしいな?、と思って、メッセージを送ってみると「あなたの予約は入っていません。」と即返信がきた。え?え?なんか取れてない気は微かにしていたけれど(それもおかしな話ではあるけど)、まさか予約が取れていなかったとは!急遽、明日から2日間宿泊する場所を探さないといけなくなり、電話で直接ホテルへ問い合わせたり、アプリで価格を見比べながら、ブリュッセル市内の異なるホテルを1日ずつ予約した。もちろん、どちらの部屋にもピアノはないけれど仕方がない。
翌朝、別のホテルへトラムで移動し、アントワープへは行ってみたかったので、日帰りで行くことにした。ブリュッセル駅の売店で朝ごはんにワッフルとカフェオレを買って、車窓から外の風景を眺めながらアントワープへ向かう。アントワープ駅に着くと、かなり多くの人で賑わっていて、土曜日だったこともあり、毎週末開催されているマルシェには、新鮮な海鮮料理、モロッコ料理、はちみつやチーズ専門店等、どれも魅力的なお店が多く並ぶ。この街に宿泊できなかったのが何より残念!

夕方になって、ブリュッセルへ戻るため、アントワープ駅の掲示板でブリュッセル行きの電車の時間やホームを確認しても、遅延やキャンセル等が相次ぎ、どのホームへ行けばいいか戸惑い、広い駅の中を行ったり来たり、ホームで待つ人に聞き回っても的確な回答を得られず、あまりに複雑過ぎるタイムスケジュールとその都度変えられるホームに右往左往。遅延している快速より早く着きそうだったので普通電車に乗り、なんとかブリュッセルへ戻れた。たかがブリュッセルへ戻るのにこんなに振り回されるなんて、もしかしたらアントワープは何かしら縁がない街だったのかもしれない。翌日は、またブリュッセル市内の別のホテルへ移り、ホテル近くのベルギーレストランで最後の晩餐。円安も影響して、出費がかさみ、帰りの便はアップグレードせずエコノミークラスのままでチェックイン。
翌朝、空港へユーロスターで向かうため、ブリュッセル南駅でホームへ上がるエレベーターを待っていたところ、一緒に待っていたアメリカ人カップルと軽く立ち話。いくら待ってもドアが開かないのは、エレベーターが壊れていたためで、エスカレーターでホームへ上がることになり、スーツケースを引っ張りながら、二人の旅話を聞く。二人は、ロサンゼルス出身で何もかもChat GPTで調べながらベルギーを旅していたが、ベルギーの電車だけは複雑過ぎてChat GPTもお手上げでタクシーを利用した話を聞き、私達もアントワープ駅でどれだけ電車に乗るのが大変だったかを語った。
行きのユーロスターは普通席だったのに、帰りの座席は何故か一等車で軽食まで振る舞われた。ただ、降りるはずの駅をひとつ間違えて通り越してしまい、次の駅で慌てて折り返す電車に乗り変えないといけない羽目に。アムステルダム駅のエレベーターも壊れていて、大きなスーツケースを抱えて階段を降りなくてはならず、折り返す電車のホームに着いた途端、電車が出発してしまい、また別のホームへ向かい、ドタバタしながら大慌ててスキポール空港のチェックインカウンターに到着。予定通り飛行機は飛び、乗客は半分に減らされることなく、無事日本へ帰国した。
で、肝心な私の初心者レベルのフランス語を話す挑戦は一体どうだったかというと、簡単な挨拶はできたものの、ベルギー人は英語が堪能で、どこから見てもアジア人の様相の私を見た瞬間、英語で話しかけられてしまい、ドギマギしながらフランス語でなんとか返すも私のフランス語が英語に聞こえるのか、このレベルじゃ話にならないと思われたのか英語一辺倒で、私もフランス語に戻すのが面倒になり、折角のフランス語を話す機会をうまく活用できなかった結果に。それと同時に英語の便利さにも再度気付かされた次第です。
半日のアムステルダム滞在も1週間程過ごしたブリュッセルも素敵な街で、それぞれ魅力的でしたが、空港や駅のエレベーターとエスカレーターが壊れている箇所が多かったので、その改善と、電車のホームを分かりやすくしてもらえたらと切に願い、ほぼ毎日食べていた Gâteaux au chocolat(チョコレートケーキ)が恋しくなったら、今回見れなかった他の素晴らしい美術作品に触れるためにも再度訪れたい街だなと思います。そして、次回こそは、アントワープのアパートの予約をしっかり確認してから旅立ち、半数の搭乗者に減らされない飛行機に搭乗できればと願います。

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